ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル
原著 : The Wise Company: How Companies Create Continuous Innovation
著 : 野中郁次郎、竹内弘高
訳 : 黒輪篤嗣
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『知識創造企業』 (『The Knowledge-Creating Company』) の続編にあたる書籍
たえざる実践を通じて、知識を知恵 (wisdom) にまで高めることの重要性と、知恵を獲得・活用する方法が示される
感想 nobuoka.icon
本書にはアジャイルとかそういう話はほとんど出てこないけど、アジャイルやリーンスタートアップにおける仮説検証と本質的には同じだなーという気がした
野中郁次郎はスクラムの祖父と言われたりもするので、それはそう、という気もする
内容メモ
『知識創造企業』 の続編
『知識創造企業』 は、ナレッジマネジメントという新しい分野も生み出した
新たに本書を書いた理由
1. 理論は広く受け入れられたが、SECI の実践についてはまだ十分に理解されていない → 実践に移る
2. この 25 年間で世界は大きく変わった (変化が激しくなった) → 高次の暗黙知が必要である
3. 理論にさらに磨きをかけるため
1 部 新しい理論的基盤
1 章 知識から理恵へ
世界には知識が揃っているのに、世界の金融システムの崩壊やゼネラルモーターズなどの業界の盟主の失墜も防げていない
3 つの問題
1. 正しい種類の知識が使われていない : 暗黙知ではなく形式知に頼ってしまう
2. 未来を創るということがなされていない : 自分はどういう未来を創造したいか? 企業が望む未来は主観的な目標、信念、関心に根差しているべき
3. 時代にふさわしいリーダーを育成していない : 不確実な現代にはワイズリーダーが求められる
3 つの問題を克服するために
以下の知的な土台をもとに
1. 知恵
2. フロネシス
3. 場
企業において以下を促進し、よりよい未来を築いていく必要
4. 持続的なイノベーション
5. 社会的な SECI スパイラル
ホンダの持続的なイノベーションの事例より、長く繁栄するための 3 つの教訓
1. 使命やビジョンや価値観を明確にする
まずはこれらの言葉の意味をはっきりさせる → 使命 (ミッション)、ビジョン、価値観について
2. 持続的なイノベーションが欠かせない
3. リーダーシップが肝心
知識を実践することの重要性
前著で伝えたかった事 : 知識創造がイノベーションをもたらす
本書の核 : 知識実践が持続的なイノベーションを支える
藤野道格はいま・ここで物事を成し遂げることを重んじるプラグマティスト
リーダーは、実践知を組織全体で育む必要
形式知と暗黙知だけでは足りない
実践知を備えたリーダーをワイズリーダーと呼ぶ
2 章 知識実践の土台
西洋と日本のマネジャーでは、知識創造へのアプローチの仕方が違う
背景に、西洋と日本の 「知識とは何か」 (認識論) や 「知識がどのように生まれるか」 (知識の源泉) の考え方の違い
西洋 : プラトンにまでさかのぼる豊かな認識論の伝統がある
抽象的な理論や仮説に最高の価値を認める傾向 → 科学の発展に寄与
科学や西洋の経営における知識感は、いまだにデカルト的な分割 (主観と客観、心と体、精神と物質という二元論) に支配
日本 : これといったものはない (西田幾多郎ぐらい)
直接的、個人的な体験に価値がおかれる (「いま・ここ」 の経験を重視する)
現実は、目に見える具体的なものの中にある
nobuoka.icon あるがままに捉えるという点で、心理学的経営の考え方に近そう
知識実践は古代ギリシャ哲学の大きなテーマのひとつだった
アリストテレスはエピステーメーやテクネーと対照的な概念としてフロネシスという概念を用いていた (アリストテレスによる知識の分類)
知識実践を理解するにはフロネシスを理解する必要
現象学やプラグマティズムも
『知識創造企業』 の基礎の一つがマイケル・ポランニー
ポランニーは 20 世紀初頭に暗黙知の概念を提唱
ポランニーによると、知識実践のプロセスには無意識と意識とのダイナミックな相互作用がある
脳科学における知識実践
神経科学においても、あらゆる知識が行動に根差していることを示す証拠が見つかっている
イチローの例 : エナクティビズム (enactivism) と呼ばれる認知科学の知見にも合致
心と体と環境の間のダイナミックな相互作用が、志向や意識の発生のカギを握っているという考えが支持されてきている
アリシア・ジュアレロは、人間の志向性は複雑適応系の産物であると考える
クリストフ・コッホは、人間の脳は複雑に統合されたシステムの一部で、そのシステムの中で脳と体と世界がダイナミックに関わりあっているという理解
ゾンビ・エージェント
社会神経科学の研究で、他者と繋がろうとする気持ちが人間に生物学的に備わっていることがわかってきた
公平でありたいという内在的な仕組み : 資源の不公平な分配に対して、島皮質が活動して嫌悪感を感じさせる
リチャード・ネルソンとシドニー・G・ウィンターの著作
組織記憶
従業員の習慣的な振る舞いが組織の遺伝子であるとみなす → 組織的知識、組織的知識実践
クリス・ブラウンによる実践論的転回
オープンイノベーション
3 章 知識創造と知識実践のモデル
SECI プロセスを土台に、知識創造理論を拡大して現代的な知識創造・実践モデルを作る
新しい SECI のマトリクス
知識の定義
日本航空 (JAL) の再建
SECI スパイラルというコンセプト
シマノでは 60 年間で 6 回の SECI プロセスが繰り返された (SECI スパイラルのダイナミックな動き)
SECI スパイラルの原動力としてのフロネシス
エーザイのアリセプト開発の事例
新薬の開発プロセスの体系化、モデル化
ミッションステートメントで患者目線をメッセージング → 薬を創ることだけじゃなくて、患者に使ってもらうところまで
部門ごとに hhc への取り組みの権限 → 部門間の横連携がない
知創部の創設 : hhc 理念をエーザイ全体に浸透させ、実践させ、グローバルな hhc 理念の実践を図る
抗がん剤レンビマで完全治癒の例も
2 部 ワイズカンパニーの六つのリーダーシップの実践
4 章 何が善かを判断する
ワイズリーダーシップ : 社会にとっての善をなす
5 章 本質をつかむ
ワイズリーダーシップ : 本質を素早くつかむ
6 章 「場」 を創出する
ワイズリーダーシップ : 「場」 の創出
7 章 本質を伝える
ワイズリーダーシップ : 本質を伝える
8 章 政治力を行使する
ワイズリーダーシップ : 政治力を行使する
9 章 社員の実践知を育む
ワイズリーダーシップ : 社員の実践知を育む
エピローグ 最後に伝えたいこと
イノベーションの 0 から 10
0 → 1 : 創造性と想像力
何をなすべきかを知ることが必要 : フロネシス
1 → 9 : 知性の拡大
STEM の知見が積極的に活用される
9 → 10 : イノベーションが洗練され、感性や美意識に訴えかけるものに
バルミューダのザ・トースターなど
イノベーションの最初と最後 (0 → 1 と 9 → 10) で人間が重要な役割
知識マネジメント
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